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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)5045号 判決 1954年3月02日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人宗宮信次の上告趣意第一点について。

所論援用の高等裁判所判例のうち、前者は、業務上横領(費消)の事実に関し、後者は窃盗の事実に関するものであるが、原判決は本件物品税は製造者が毎月その製造場より移出した物品につきその数量及び価格を記載した申告書を翌月十日迄に政府に提出し毎月分を翌々月末日迄に納付すべきものであるため、各月分毎に物品税逋脱罪が成立することを判示しているに過ぎないのであって、何等これらの判例と相反する判断をしているわけではないから、所論判例違反の主張は理由がない。そして各月分毎に物品税逋脱罪が成立するとの原判示も正当である。

同第二点について

所論援用の高等裁判所判例のうち、前者は、検査合格品である靴を統制額をこえて販売したという訴因に基いて、無検査品である靴を統制額をこえて販売したとの認定をした場合、後者は、従犯の訴因に対して正犯と認定した場合に関するものであって、本件とは事例がちがい、原判決は何等これらの判例と相反する判断をしてはいない。従って所論判例違反の主張は理由がない。のみならず、起訴状には、別表として犯罪一覧表が添付され、これによって、物品の各移出毎に日時、数量、価格等が明確となっており、原判決は、そのとおりの事実関係(ただし各月にまとめて)を認定したうえで、各月分毎に一罪が成立するものとしただけであるから、訴因変更がなくても、違法とはいえない。

同第三点について。

捜査官が被疑者を取調べるにあたって、いわゆる黙秘権のあることをあらかじめ告知すべきことが、憲法三八条によって要求されているものでないことは、当裁判所判例の示すところであるから、所論はその前提を欠き採用できない。(昭和二二年(れ)一〇一号同二三年七月一四日大法廷判決〔集二巻八号八四六頁〕、昭和二五年(れ)一〇八二号同年一一月二一日第三小法廷判決〔集四巻一一号二三五九頁〕、昭和二六年(あ)二四三四号同二八年四月一四日第三小法廷判決〔集七巻四号八四一頁〕参照。)

同第四点について。

収税官吏がいわゆる黙秘権のある旨をあらかじめ告知しなかったからといって、ただちに、これに基く供述が強要されたものであるということはできないから、所論憲法三八条違反の主張は前提を欠くものである。(前掲当裁判所各判例参照。)

なお記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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